ライフスタイルの変化や暮らし方の多様化に伴い、お墓に対する価値観も近代化の一途をたどっています。
厚生労働省の調べによると、墓を整理して手放す「墓じまい」は年々増加傾向で、2018年度は前年度から1割増の11万5384件となり過去最高を更新しました。
●墓じまいはなぜ増えているのか、実際の例を紹介。
- 1、単身者、Dinksなど生活観の変化から後継者がいない
- 都内に住むAさんは奥さんとの2人暮らし。子供はおらず、一人っ子のAさんは元来お墓を継ぐ立場にありますが、実家は九州で気軽に帰省できる距離ではありません。
「東京都内の墓地はとても高価で手が出ないため、お墓の引っ越しは考えていません。幸い両親も私達の意向を汲んでくれるので、手元供養や納骨堂など、生活環境に合わせて選んでいきたい」 - 2、家長制度や親族間の関係性が変わりつつある
- 会社員をしているBさんは地元・和歌山県では旧家と呼ばれる家の長男ですが、驚くことに「墓じまい」を提案したのはお父様だったとか。
「ある正月、父がいきなり『家を売って母さんとリゾートタイプの老人ホームに入る』と言い出したんです。墓じまいの段取りもしていて驚きました。死んだら骨は散骨でもしてくれと。父や母の時代は家や墓を守らないといけない時代でしたから、そういう苦労を僕たちに継がせまいという気持ちもあったのでしょう」 - 3、そもそもお墓の意味や価値がわからない
- 実家の宗教も知らないというCさんは独身を謳歌する“おひとりさま”女性です。
「母1人子1人の環境で育ったので、家には仏壇などもありませんでした。祖父母のお墓参りも年に1度くらいしか行った覚えがありません。いずれ母が亡くなった際は当然ちゃんと供養したいと考えています。でも宗教にも馴染みがありませんし、お寺とかお墓にこだわらなくても良いんじゃないかって思いますね」
●最近はお墓に対する価値観や宗教観自体が変わってきています。
旧来の日本社会では、供養は儀式的な意味を持つものでした。家制度が基礎にある日本では個の単位は1人ではなく一族であり、年功序列の観点から年長者、さらに先祖は絶対的な存在とされました。死んだ先祖を崇めるには儀式的な方法に則る他はなく、また一族の結束は儀式によって可視化され、いっそう拘束力を増したと言えるでしょう。
いつしか儀式は先祖への畏敬の念から、せねば悪いことがおこる「祟り信仰」的側面を持つようになっていきます。ですが高度経済成長期以降、日本人は欧米文化に影響され個人主義的な価値観や合理的なものの見方をするようになりました。
手元供養をはじめとする様々な供養が注目されるようになった背景には、現代人の自主的な生き方や、人生における選び取りが影響していると言えるのではないでしょうか。宗教の重要性についても、残された人や故人の想いを前提とし、すべての人がそれぞれに合った方法を選んで良い時代になったのです。
無宗教の人はインテリアとして並べられ、宗教性やこれまでの習わしも大切にしたい人はお仏壇に備えることもできる手元供養の品々は、これからを生きる、新時代の供養と言えるのではないでしょうか。